「バイブコーディング(Vibe Coding)」という言葉を、ニュースやSNSで見かけることが増えました。ただ、言葉だけが先に広まったせいか、「AIに頼めばプログラミングの知識がなくてもアプリが作れる魔法のような方法」と受け取られていることも少なくありません。実際はもう少し地に足のついた話で、うまく使えば非常に速く、使い方を誤ると後から困る、という性格を持った手法です。
この記事は、次のような方を想定して書いています。
- バイブコーディングという言葉の意味や由来を、正確に知っておきたい方
- 自分でも試してみたいが、何から始めればよいか分からない方
- 社内ツールや新規サービスの試作を、バイブコーディングで作ってもらうことを検討している方
言葉の定義から、従来の開発との違い、実際の進め方、向いている開発と向いていない開発、注意すべきリスク、そして開発を依頼する側が押さえておきたいポイントまで、順番に整理していきます。
バイブコーディングとは何か
意味:AIに言葉で伝えながらソフトウェアを作る開発スタイル
バイブコーディングは、人がコードを一行ずつ書くのではなく、AIに自然な言葉で「こうしたい」と伝え、AIが書いたコードを動かして確かめながらソフトウェアを作っていく開発スタイルです。人は作りたいものや直したい点を日本語や英語で伝え、AIがコードを生成し、人が動作を確認して次の指示を出す。この往復を繰り返して完成に近づけていきます。
「バイブ(vibe)」は英語で「雰囲気」「ノリ」といった意味の口語です。細かな構文や設計を一つずつ詰めるのではなく、「だいたいこんな感じ」という感覚を言葉で伝え、その感覚に沿って形にしていく、というニュアンスが込められています。英国の辞書 Collins は、この言葉を「自然言語で指示を与えた人工知能を使って、コンピューターのコードを書くこと」という趣旨で説明しています(Collins Dictionary Language Blog)。
言葉の由来:アンドレイ・カルパシー氏の投稿
この言葉を広めたのは、OpenAI の創業メンバーの一人で、Tesla で AI 部門を率いたことでも知られるアンドレイ・カルパシー(Andrej Karpathy)氏です(Wikipedia「Andrej Karpathy」)。2025年2月、同氏は X(旧Twitter)への投稿で、雰囲気に完全に身を任せ、コードが存在することすら忘れてしまうような新しい種類のコーディングを「vibe coding」と呼びました。投稿の中では、見て、言って、動かして、コピー&ペーストする、といった調子で、ほとんどキーボードでコードを書かずに作業している様子が描かれています(投稿内容の要約は Wikipedia「Vibe coding」 を参照)。
その後の広がりは早く、2025年3月には米国の辞書 Merriam-Webster が「スラング・流行語(slang & trending)」として取り上げ、同年11月には Collins English Dictionary が2025年の「Word of the Year」に選んでいます(Wikipedia、Collins)。
「AIを使った開発」すべてがバイブコーディングではない
ここは誤解されやすい点です。開発者でブロガーのサイモン・ウィリソン(Simon Willison)氏は、バイブコーディングを「AIが書いたコードをレビューせずにソフトウェアを作ること」と捉え、AIが書いたコードでも、人がレビューし、十分にテストし、他人に仕組みを説明できる状態にしたのなら、それはバイブコーディングではなく普通のソフトウェア開発だ、と整理しています(Simon Willison's Weblog)。
つまり、厳密な意味での「バイブコーディング」は、コードの中身をあまり気にせずに動くものを作るスタイルを指します。一方で日本語の記事やサービス紹介では、もう少し広く「AIと対話しながら開発すること全般」を指して使われることも多いのが実情です。この記事では、広い意味での使い方も踏まえつつ、「中身を確認しない進め方」と「確認しながら進める進め方」を区別して説明していきます。この区別は、後で触れる品質や依頼先選びの話に直結します。
従来の開発との違い
バイブコーディングと、人がコードを書く従来型の開発を比べると、違いは「誰が何を担当するか」に集約されます。主な違いを表にまとめました。
| 項目 | 従来の開発 | バイブコーディング |
|---|---|---|
| コードを書く主体 | 人(エンジニア) | AI。人は指示と確認を担当 |
| 指示の形 | 仕様書・設計書・プログラミング言語 | 自然な言葉による指示と、動作を見たうえでのフィードバック |
| 進め方 | 仕様を固めてから実装することが多い | まず動くものを作り、触りながら仕上げていく |
| 修正のサイクル | 修正内容によっては数日単位になることもある | 指示から確認までが短く、何度も回しやすい |
| 人に求められる力 | 設計力、実装力、言語やフレームワークの知識 | 目的を言葉にする力、結果を見て判断する力、品質を見極める力 |
| 注意点 | 時間とコストがかかりやすい | 中身を理解しないまま進むと、保守や安全性に課題が残りやすい |
表を見ると分かるとおり、バイブコーディングは「人の仕事がなくなる手法」ではありません。コードを打つ作業がAIに移る代わりに、何を作るかを決める仕事と、出てきたものを判断する仕事の比重が大きくなる手法です。特に後者、つまり「動いているように見えるものが本当に正しいか」を見極める部分に経験の差が出ます。
バイブコーディングのやり方
ここからは、実際にどう進めるのかを具体的に見ていきます。使うツールは、AIと対話しながらコードを編集できるエディタ、ブラウザ上でアプリを作れるサービス、ターミナルで動くAIエージェントなどさまざまです。Wikipedia の記事では、Cursor、GitHub Copilot、Replit Agent などがバイブコーディングに関連するツールとして言及されています(Wikipedia)。ツールの種類は違っても、進め方の骨格はほぼ共通です。
ステップ1:作りたいものを短い文章にする
最初にやるべきことは、ツールを開くことではなく、作りたいものを文章にすることです。「誰が」「どんな場面で」「何に困っていて」「何ができれば解決か」を、三〜五行程度で書き出します。ここが曖昧なままAIに頼むと、AIはもっともらしいものを作りますが、それが欲しかったものかどうかは分かりません。
ステップ2:最小限の形から作り始める
いきなり全機能を頼むのではなく、中心となる一つの機能だけを作ってもらいます。画面が一枚あり、データを入れると結果が出る、くらいの小さな範囲で十分です。小さく作ると、AIの出力を確認しやすく、方向がずれたときの手戻りも小さくて済みます。
ステップ3:動かして、気づいたことを言葉で返す
作ってもらったら、必ず実際に動かします。そのうえで「ボタンの位置が分かりにくい」「日付の並びが逆になっている」「空欄のまま送信するとエラーになる」など、気づいた点を具体的に伝えます。「いい感じにして」よりも、「何がどうなっていて、どうなってほしいか」を伝えた方が、修正の精度は明らかに上がります。
ステップ4:小さく区切って積み上げる
一度に複数の変更を頼むと、どの変更で何が壊れたのか分からなくなりがちです。一回の指示では一つの変更に絞り、うまくいったら保存(バージョン管理)してから次に進む、というリズムを作ると、失敗したときに戻れる場所が常に確保されます。
ステップ5:公開や本番利用の前に、人が中身を確認する
自分だけが使う試作品なら、動けば十分という場面もあります。しかし、他の人が使う、個人情報や決済を扱う、社内の重要なデータに触れる、といった場合は話が別です。入力値のチェック、認証まわり、秘密情報の扱い、エラー時の挙動などを、コードを読める人が確認する工程を必ず挟みます。
指示の出し方で結果が変わる:伝えるべき四つの要素
同じツールを使っていても、指示の出し方によって出来上がるものの質はかなり変わります。次の四つを意識して伝えると、やり直しの回数が減ります。
- 目的:その機能で何を実現したいのか。「一覧を並べ替えたい」だけでなく、「期限が近いものから対応したいので」と理由まで添えると、AIが適切な実装を選びやすくなります。
- 範囲:今回変えてよい場所と、変えてほしくない場所。「画面のデザインは今のままで、並び順だけ変えてください」のように線を引きます。
- 具体的な例:入力と、期待する出力の例。「2件あって片方が期限切れなら、そちらが上に来る」といった例は、長い説明よりも正確に伝わります。
- 確認方法:どうなれば完成とみなすか。「この3パターンで試して、すべて期待どおりなら完了」と決めておくと、自分の確認作業もぶれません。
逆に、うまくいかないときの典型は「全部まとめて直して」「前と同じ感じで」といった、AI側から見て判断材料が足りない指示です。うまく伝わらないと感じたら、指示を短くするのではなく、目的と例を足してみると改善することが多いです。
具体例:社内の備品貸し出し管理ツールを作る場合
イメージをつかむために、説明用の架空の例を一つ挙げます。総務担当の方が、紙の台帳で管理している備品の貸し出しを、簡単なWebツールに置き換えたいと考えたとします。最初の指示は、たとえば次のようなものになります。
社内の備品貸し出しを管理する簡単なWebアプリを作りたいです。備品の一覧があり、誰がいつ借りて、いつ返す予定かを登録できるようにしてください。まずはログイン機能なしで、一覧表示と貸し出し登録だけで構いません。
動くものができたら、触ってみて次の指示を出します。
返却予定日を過ぎている行を、一覧の上の方にまとめて表示してください。あわせて、同じ備品を二人が同時に借りられないようにしてください。
このように、一回の指示で扱うテーマを絞りながら、使う人の目線で改善を重ねていきます。社内で本格的に使う段階になったら、ログインや権限、データのバックアップ方法などを追加で検討し、その部分は特に慎重に確認します。バイブコーディングの速さが活きるのは、前半の「形にして、触って、直す」という部分です。
バイブコーディングが向いている開発・向いていない開発
向いている開発
- アイデアの検証用の試作品:本当に使われるかを確かめる段階では、完成度よりも「早く触れること」に価値があります。
- 社内向けの小さな業務ツール:利用者が限られ、要望をすぐに聞ける環境では、作って直すサイクルが回しやすくなります。
- ランディングページや簡単なWebサイト:見た目を確認しながら調整する作業と、対話型の進め方の相性が良い分野です。
- 定型作業の自動化スクリプト:ファイルの整理やデータの変換など、入力と出力がはっきりしている作業は指示が伝わりやすくなります。
慎重に扱うべき開発
- 決済や個人情報を扱うシステム:不具合や脆弱性が起きたときの影響が大きいため、人による設計とレビューが欠かせません。
- 長期間、多人数で保守する大規模システム:誰も全体を理解していない状態は、後からの改修を難しくします。
- 法令や業界の規制に関わる処理:要件そのものを正確に定義する必要があり、「なんとなく」で進める余地が小さい分野です。
前述のウィリソン氏も、レビューしないバイブコーディングが適しているのは、バグや脆弱性があっても被害が小さい「低リスクな」プロジェクトだと述べています(Simon Willison's Weblog)。向き不向きは、技術の種類よりも「失敗したときに何が起きるか」で判断すると考えやすくなります。
メリットと注意すべきリスク
主なメリット
最大の利点は、アイデアが形になるまでの時間を短くしやすいことです。以前なら仕様の打ち合わせだけで時間がかかっていたものが、試作品を見ながら話せるようになると、関係者の認識合わせも早くなります。また、プログラミングを専門としない人でも、自分の業務の困りごとを自分の言葉で形にしやすくなった点も大きな変化です。
リスク1:セキュリティの確認漏れ
AIが書くコードは、一見きれいに動いていても、入力値の検証が甘い、APIキーなどの秘密情報がコードに直接書かれている、アクセス制限が不十分、といった問題を含むことがあります。動作確認だけでは見つからないため、公開前のセキュリティ確認は人が意識的に行う必要があります。
リスク2:保守性と「誰も中身を分かっていない」状態
指示を重ねるうちに、似た処理が何か所にも書かれていたり、場当たり的な修正が積み重なったりすることがあります。作った本人も中身を説明できない状態になると、機能追加や不具合修正のたびに予想外の場所が壊れる、という事態が起きやすくなります。
リスク3:動いているように見えるだけのコード
典型的なケースでは問題なく動いても、データが空のとき、件数が多いとき、同時に操作されたとき、といった条件で不具合が出ることがあります。どんな条件でテストすべきかを考えるのは、今のところ人の役割です。
これらのリスクは、バイブコーディングをやめる理由というより、「どこまでをAIに任せ、どこから人が責任を持つか」を決めておく理由と捉えるのが現実的です。
バイブコーディングで開発を依頼するときのポイント
自分で作るのではなく、バイブコーディングを使いこなす開発者に依頼するという選択肢もあります。依頼する側が次の点を押さえておくと、スピードの利点を活かしやすくなります。
1. 「何を解決したいか」を先に言葉にしておく
先ほどのステップ1と同じです。「こういう画面が欲しい」より、「誰の、どんな困りごとを、どう解決したいか」を伝える方が、開発者は適切な作り方を提案しやすくなります。完璧な仕様書は不要ですが、目的が一文で言える状態にしておくと話が早く進みます。
2. 最初は機能を絞り、使いながら育てる
最初から全部入りを目指すと、確認すべき範囲が広がり、スピードの利点が薄れます。「これがないと始まらない」機能だけで一度形にし、使ってみてから追加を判断する方が、結果的に無駄の少ない進め方になります。
3. 確認と品質チェックを誰が担うかを確かめる
依頼先を選ぶうえで一番大事なのがこの点です。AIの出力をそのまま納品するのか、動作確認やセキュリティの確認まで行ったうえで納品するのか。どんなテストをするのか、納品後に不具合が見つかった場合はどうするのか。依頼前に確認しておくと、後々の認識違いを防げます。
4. 納品物と引き継ぎの形を決めておく
ソースコードを受け取れるのか、どこに公開・設置するのか、自社で修正したくなったときに必要な説明はあるのか、といった点も事前に確認しておくと安心です。
当サイトの VibeCoder でも、AIを活用した開発のご依頼を受け付けています。作りたいものがある程度まとまっていれば、開発依頼フォームから内容を送っていただけます。依頼の送信は無料で、担当者より2〜3営業日以内にご連絡します。内容によっては最速1日での納品も可能です(納期は内容・規模によって異なります)。
よくある質問
プログラミングの知識がなくてもバイブコーディングはできますか?
簡単なツールや試作品であれば、知識がなくても動くものを作れる場面は増えています。ただし、エラーが出たときの原因の見当をつけたり、セキュリティ上の問題に気づいたりするには、ある程度の知識があった方が有利です。公開して他の人に使ってもらうものは、コードを読める人の確認を挟むことをおすすめします。
バイブコーディングと「AI駆動開発」「AIペアプログラミング」は同じ意味ですか?
明確に統一された定義はなく、重なる部分も多い言葉です。狭い意味のバイブコーディングは、先に紹介したように「コードの中身を細かく確認せずにAIに任せて作る」ニュアンスが強く、AIの出力を人がレビューしながら進める開発とは区別されることがあります。記事やサービスによって使い方が異なるため、文脈で判断するのが確実です。
作ったアプリをそのまま仕事で使っても大丈夫ですか?
自分一人が使う補助ツールであれば問題にならないことも多いですが、顧客情報や社内の重要なデータを扱う場合、外部に公開する場合は、事前にセキュリティや動作の確認が必要です。社内の情報システム部門やセキュリティ規程がある場合は、そのルールにも従ってください。
従来の受託開発と比べて、依頼するメリットは何ですか?
試作品を見ながら要望を固めていけるため、最初に細かな仕様書を作り込まなくても始めやすい点が挙げられます。一方で、要件が大きく複雑なシステムや、厳しい品質基準が求められる案件では、従来型の設計工程をしっかり踏む方が適している場合もあります。どちらが合うかは、案件の規模とリスクによって変わります。
依頼するときに仕様書は必要ですか?
必須ではありません。目的、使う人、最低限必要な機能、参考にしたい既存のサービスや画面のイメージがあれば、十分に相談を始められます。手書きのメモや、現在使っている表計算ファイルなども、伝える材料として役に立ちます。
参考
- Andrej Karpathy 氏の X への投稿(2025年2月)
- Wikipedia「Vibe coding」
- Collins Dictionary Language Blog「Collins' Word of the Year 2025」
- Simon Willison「Not all AI-assisted programming is vibe coding (but vibe coding rocks)」
まとめ
バイブコーディングとは、AIに自然な言葉で指示を出し、動くものを確かめながらソフトウェアを作っていく開発スタイルです。2025年2月にカルパシー氏が名付けて以降、短期間で広く使われる言葉になりました。
その強みは、アイデアを形にするまでの速さにあります。一方で、コードの中身を確認しないまま進めると、セキュリティや保守性の問題を抱えやすくなります。自分で試す場合も、開発を依頼する場合も、「解決したいことを言葉にする」「小さく始めて育てる」「公開前の確認は人が責任を持つ」という三点を押さえておけば、速さと安心のバランスを取りやすくなります。
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